まもなく出産を迎える私。
先日、子育てがテーマの映画を観たいなと思い、Amazon Primeで「八日目の蝉」を鑑賞しました。
角田光代さんの原作が映画化された作品です。
愛人との間に出来た子供をやむを得ず中絶したことにより、子供を授かれない体になってしまった女性(希和子)が、愛人とその妻との間に産まれた赤ちゃんを誘拐し、我が子として育てる逃亡劇。
そして、やがて警察に保護され両親の元に戻った女の子(恵理菜)が、大人になってからの話。
これから産まれて来る我が子にたくさん愛情を注ごうと、心から感じた作品でした。
本作から感じたこと
以下には、内容に関する記述も含まれます。
・愛されたという経験の尊さ
自分を誘拐した希和子を憎み、実の両親ともうまくいかず、心を閉ざしながら生きてきた恵理菜ですが、物語の最後には自分が周囲の人たちに愛されて育ったことを思い出し、既にお腹に宿っている自分の子どもを全力で愛そうと誓います。
働いていろんなものを見せてあげるんだ かわいい服着させて、美味しいもの食べさせて、何にも心配いらないよって教えてあげる 大丈夫だって、世界で一番好きだって何度も言うよ
映画「八日目の蝉」
この話には驚きの結末があると言うわけではなく、また決して幸せな気持ちになれる話ではないのですが、自分が愛されて育ったという事実に恵理菜が気づいたときのこのセリフに、観終わった後ただ救われました。
また、愛される経験と同様に、愛するという経験も尊いなと感じました。
この後、恵理菜が自分の子供を産んで、この言葉のとおり全力で愛することで、また新しい幸せを見つけられたらいいな…と、ハッピーエンドが好きな私は考えてしまいます。
子どもが大人になっていく中で、愛されるという経験は大きな影響を与えるし、ショッキングな体験もまた影響してしまう。誰に育てられたかより、どう育てられたかが大事なのかなと思いました。
・「八日目の蝉」というタイトルについて
七日間しか生きられないと言われている「蝉」について、ある登場人物が話す場面があります。
そこで恵理菜は、みんな七日間で死ぬなら可哀想ではない、自分だけ八日間生きてしまうほうが可哀想だ、と言います。
さらに後半で、その登場人物はこんなことを言います。
あのさ、前に蝉の話したよね 七日で死ぬより、八日目の蝉のほうが悲しいって 私もそう思ってたけど、違うかもね 八日目の蝉はさ、他の蝉には見られなかった何かを見られるんだもん もしかしたらそれ、すごく綺麗なものかもしれないよね
映画「八日目の蝉」
このタイトルは、物語にどのように投影されているのか、様々な解釈があると思いますが、私は希和子でもあり、恵理菜でもあり、さらにこの話の中で「生きづらさを抱える」あらゆる登場人物に投影されているような気がします。
生きづらさを抱える中でも、生きていることで多くの「綺麗なもの」に出会える。
その「綺麗なもの」の見つけ方も、誰かに愛される、また誰かを愛するという経験により養われていくのかな、と感じました。
愛し愛される対象は親子だけではないと思うのです。
私は、夫と出会ったことにより見えた「綺麗なもの」もたくさんあると気づきました。新婚旅行で初めて行ったフランスの景色から、料理好きの夫に教えてもらった美味しいチャーハンの作り方、結婚記念日や誕生日に買うささやかなお花。
物語の最後までぎくしゃくした描写しか見られなかった、恵理菜の実の両親。
観る側としては、かつて不倫していた父親とヒステリックな母親という、悪い印象が強いですが、幼少期の娘へ愛情を注ぐ時間を奪われた存在でもあります。
彼らもまた、これから産まれてくる孫を愛することで、閉ざされた視界の中から「綺麗なもの」を見つけられたら良いな、なんて考えてしまいます(やっぱりハッピーエンド思考な私)
・美しい自然と温かい人々の描写
作品後半に出てくる、小豆島の豊かな自然の中で、逃亡する二人とそれを知らない住人とが温かく交流を深める描写がとても好きでした。
中でもよかったのは、島で江戸時代から続くという夏の風物詩「虫送り」のシーン。二人で火の灯ったたいまつを持って、夕暮れのあぜ道を幸せそうに歩きます。希和子が誘拐犯であることを一瞬忘れかけ、この幸せがずっと続けばいいのにと思いながら観ていました。
私の好きな作品の一つである「パーマネント野ばら」とどこか似た空気感があるなと思っていたのですが、後で調べたところ同じ奥寺佐渡子さんの脚本でした!
おわりに
子育てがテーマの作品を観たいと思って観た本作。
観終わったあとの重い余韻の片隅で、私は産まれてくる子どもにどんな「綺麗なもの」を見せてあげたいかなと、また、自分がこれからどんな「綺麗なもの」に出会えるのかなと、思いを巡らせています。
普段、サスペンスはそんなに見ない私ですが、本作はヒューマンの要素が強く、話にすんなり入っていけました。
原作は、映画とは設定が異なる部分もあるそうなので、読んで比較できたら良いなと思っています!
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